性愛と恋愛を極めた女性という題材の映画になると、ほぼ確実に阿部定事件がモチーフになるのは日本の女性(情念とか秘めた性欲みたいな)に対する見方の問題なのか、または定番として扱わなければならないという映画製作会社のルールでもあるのかは不明なんですが、U-NEXTで配信されている映画の本数だけでも「愛のコリーダ」「SADA」「阿部定 最後の七日間」の三本が配信
されていて、100年前の事件を映画化していても、それなりに観る人はいるというのは凄い話だなと思います。
「SADA」は黒木瞳が主役の阿部定を演じて、その性愛の相手である吉蔵役は片岡鶴太郎が出演していますが、男の色気みたいなものは感じられないために「愛のコリーダ」で吉蔵を演じた藤竜也のような魅力は無いですね。
監督は故・大林宣彦さんで、ドイツのベルリン国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞している作品ですから、それなりに観ごたえのある作品です。
阿部定事件は、その事件内容の壮絶さが、いつの間にか純粋な愛情の物語へと変遷しているという珍しい事件で、さらに約40年ほど前には、同じ事件を題材にして、大島渚監督が「愛のコリーダ」という題名で映画化しています。
こちらは日本初の全編ハードコア(実際に性交をして撮影)映像だったために映画の内容以外の部分(画像付きのシナリオが販売され、わいせつ図画として裁判になりました)でも話題になりましたし、海外(特にフランス)で非常に評価の高い作品になりました。
多くの人が知っていると思いますが、簡単に阿部定事件をまとめてみると元々は芸者見習いみたいな仕事していた阿部定は、東京の鰻屋の女中として雇われその店の主人と不倫関係になります。
最初は密かに外で落ち合い、いわゆる愛人関係でしたが、次第に体を噛んだり首を絞めたりする倒錯的な快感に嵌まっていき、自分を殺してくれと頼まれた定は愛人である店主を絞殺し、男性器を切り取って、自分の着物の中に大切にしまいこみ、包丁で愛人の体に愛人と自分の名前を刻み付けた上で逃走しますが、都内の旅館で逮捕されます。
故・渡辺淳一が書いた小説の「失楽園」とか「愛の流刑地」とも繋がりがあると言うか、よく似た設定の部分がありますし、不倫関係の男女が心中する設定のドラマや小説でも、阿部定事件の影響を感じることがあります。
最終的には出所後に消息不明になっているというのも、神秘的というか、真相について、本人から語られていないので、人々の伝聞が代々語り継がれていることによって話に尾ひれがついている部分もあるかと思います。
持って歩いていた愛人の男性器はしわしわに萎んだ状態で持ち歩かれていたということで、いつまでも愛人の象徴として持っていたかった、という「女心」が純愛の証として評価されている部分もありますが、警察の調書によれば局部を切り取った理由を聞かれた時に、葬儀の際に本妻が愛人の男性器に触れたり見たりすることに抵抗があったので切断して持ち歩いていたという供述がある
ということなので、嫉妬の感情が強かったのかも知れません。
ちなみに「愛のコリーダ」を海外の人々が見たがった理由の一つとして、日本の女性の女性器は横に割れているという伝説?があるので真相を確かめたいという好奇心と、浮世絵の影響から日本人男性の男性器はとても大きい(歌麿)で有名なので確認したかったという、これまた好奇心から多くの観客が長蛇の列を作って鑑賞したという話が伝わっています。
同じ人間なんですから、股間が横われているわけないでしょ?と普通なら思うと思いますが、欧米人が東洋人を見る目線の高さは、その程度だということで差別的な意図があったのは明白ですね。
「情念」「愛欲」「性愛」の象徴なような存在の阿部定をテーマにした映画は三本とも画像が暗くて見辛い面もありますが、日本の伝説になっている情欲に生きた女性をテーマにした映画を観て、機会の減った(セックスレス問題)とされる性愛について考えるというのも有意義な映画鑑賞かも知れません。
「愛のコリーダ」 大島渚監督 ★★★★☆
「SADA」 大林宣彦監督 ★★★★☆
「阿部定 最後の七日間」 愛染恭子監督 ★★☆☆☆
愛染恭子監督作品は、麻美ゆまは可愛いけど阿部定のイメージではないです。
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